引き算するリノベーション
所在地: 鎌倉市長谷
規模: 2LDK
夫婦
竣工年月日:2015年12月
設計期間:2ヶ月
施工期間:2.5ヶ月
由比ガ浜の海を望む1970年代に建てられたメゾネットタイプのレトロなテラスハウスを、東京を拠点に活躍するカメラマンMさんご夫妻の移住先としてリノベーションしました。解体工事が始まってから室内に足を踏み入れたMさんの目に留まったのは、剥いだ絨毯の下から露出したボンドの痕の残る床、むき出しになったコンクリートの梁や天井、途切れた配線など。一見荒々しいそれらのマテリアルには、一方で古い建物の記憶という無二の美しさがありました。Mさんが希望したのは、新しく狙って作ることはできないこの素材を限りなくそのまま生かし、足すことよりも引くことを計算したリノベーション。ブロークンな空間の要所をミニマムに造作し、日常と未完成感が共存する不思議な住まいに仕上がりました。
元の天井を剥ぎ取って現れた躯体をそのまま仕上げとした。経年したコンクリートの色むらや、施工時の書き込み等もあえて残している。ダーティで不陸の天井 とは裏腹に、壁にはツルリと塗装のように見える平滑な白のクロスを合わせ、互いの表情を際立たせた。そこに古びた時計や無骨な照明を合わせるセンスがMさんならでは。
玄関と廊下の当初閉じられたスペースをリビング側とガラスの建具で仕切り直すことで、1階全体に光が行き渡り、広く感じられるつくりとした。鉄錆仕上げの杉足場板を敷いた1階の床は、煙るような柔らかな質感から、日々を重ねるごとにエイジングして個性を強めて行く。
Mさん自身が日々の生活をシュミレートし、造作のオリジナルキッチンとMさん自身が家具作家にオーダーしたダイニングテーブルをL型に配置するプランが出来上がった。
2階にあった3部屋は、1つをモダンな印象の和室に、あとの2つは壁を壊して大きな部屋にし、床は絨毯を剥いだボンドの痕跡もそのままとした。
【BEFORE】2階からは由比ガ浜の海が見える。自然に近い場所だからこそ感覚的に「抜け」のあるリノベーションが欲しくなる。それを鉄筋コンクリート造のテラスハウスという無機質な素材で、よくある自然志向や海辺のスタイルとは異なるアプローチにより成立させたM邸は、今までにない新しい方向性を示したと言えるかもしれない。