暖炉のある、呼吸する家
所在地: 神奈川県
規模:
竣工年月日:2015年12月
設計期間:4ヶ月
施工期間:4ヶ月
緑濃い山裾に、代々の持ち主が大切に愛情を注ぎながら住み繋いできた、まさに「ヴィンテージ」と称するにふさわしい家がありました。その味わい深い佇まいを気に入った施主は、できるだけこの家の良い所を守り、傷んでいる所だけを修復して、豊かな自然と一体となった家を目指しました。過度な気密性はいらない、家自身が気持ちよく呼吸できるようにしたい。そして完成したのは、元の家のシンボリックな造作を生かしながら、それに似合うように注意深く選び抜かれた素材で代替された、穏やかな落ち着きに満ちた家。全てを壊して造り替えるような激しいものではなく、大切に育ててきた老木にそっと添え木を施すような、優しさが滲むリノベーションとなりました。
この家の象徴的な存在であるリビングの暖炉。マントルピース(暖炉上部の棚状の部分)は、元は光沢のある黒い御影石であったが、風合いのある大谷石に替えて補修、柔らかな表情の暖炉へと生まれ変わった。フローリングは、ニュアンスの豊かなアカシアで全面張り替え、施主自らオイルと蜜蝋を塗り、深みのあるトーンに仕上げた。
天井の梁をはじめ主要な木部に使われていたラワン材は、この家の建築当時には世に広く用いられた東南アジア由来の木材であるが、現在は合板以外ではあまり見かけなくなっている。この材が醸し出す風合いに替わるものはないという判断で、ラワン材を取り寄せて補修した。キッチンの壁には自然な色むらがあるブラウンの細長いタイルを貼った。深く落ち着いた色ではあるが、細長い形状によって重くなりすぎず、洗練された雰囲気に仕上がっている。
玄関は、この家の建築当時を偲ばせる元のガラスブロックやドア、照明をそのまま生かし、壁のみ白く塗装し直した。リビング隣の部屋は同じアカシアの床板で修繕。壁にある四角の穴は、ちょうど暖炉の裏側にあたる掃除口。浴室は在来工法でシンプルに造作し、壁には白い長方形タイル、床にはチョコレート色で円形のモザイクタイルを敷き詰めた。木の窓枠と床のタイルが、白の清潔感を際立たせながらも、空間を引き締めている。
トイレの床には蜜蜂の巣のような六角形のテラコッタタイルを敷き、温かみのある空間に仕上げた。また、洗面所は、シンプルな実験用シンクを内蔵した木製の洗面カウンターと吊収納を施主自らが制作。模様ガラスは元のままを引き継いでいる。
【BEFORE】マントルピースの御影石と天井のファンがやや華美な印象だった元のリビング。時代を感じさせるシステムキッチンにレンガタイルの壁、ピータイルの床という組み合わせだった。