インタビュー
我が家をずっと楽しみ続ける方法
公開日:2017/02/10
所在地: 葉山町堀内
規模: 2LDK / 89.44㎡
家族構成:夫婦 + 子ども2人
「余白のある家」を買う。
海まで2分、かつては小さなシルバーアクセサリーのお店があった葉山町堀内の土地に、エンジョイワークスが初めてスタイリスト石井佳苗さんと一緒につくったスケルトンハウスがあります。我々が石井さんにインフィル(内装)のディレクションをお願いした理由は、横須賀にアトリエを持つ湘南エリアのクリエイターであるというだけでなく、石井さんの「DIY」の活動に強い興味を持っていたからです。再生が困難と分かってシルバーアクセサリーのお店をやむなく解体した時に、味わいのある古い建具がたくさん出ました。日常的にリメイクを楽しんでいる石井さんならきっと、これらを生かしながら、さらに新しい世界観を生み出してくれるに違いない。
こうして出来上がった堀内のスケルトンハウスB棟は、古材やアンティーク品を取り入れたことで新築でありながらどこかノスタルジックな空気を宿しつつ、一方で下地のラーチ合板やシナベニアを一部むき出しのまま「仕上げ切らずに仕上げる」という余白を残して販売を始めました。住む人が釘を打ったりペイントしたりできる「自由な壁」のある家。あえて未完成の建売住宅。それは我々にとっても石井さんにとっても一つの「チャレンジ」だったのです。
そんなこの家を内覧し、一目見て気に入ってしまったのが、現オーナーであるKさんご一家です。
Kさんが「住んでからのDIY」を存分に楽しんでいらっしゃるという話を聞きつけ、石井さんと一緒にインタビューに伺いました。
Kさんにこの家との出会いを伺ってみると、
Kさん:「最初は逗子の駅に近い所で探していたんですよね。家を持つなら私のカイロ院を併設して家で仕事ができるようにしようと思っていたので、鎌倉の長谷も見たし、長柄も見たし。ちょうど子どもが小学校に上がるタイミングで、落ち着いて入学させてあげたかったのもあって、3月までに、という時間的な制約もありました。そんな時に、この家を見て一目惚れしてしまったんです!自分では思いつかないような内装!お風呂も、キッチンも、どこを見ても素敵!」
遠藤(不動産営業):「Kさんの目の色が変わったのを覚えてます(笑)キラキラ~って」
Kさん:「もし自分で建てるとしても、このまんま建てたい!と思ったほど気に入りました。1階はガランとした大空間で間仕切り壁も自由につくれると聞き、カイロ院もできそうだと。全ての条件が揃っていました」
Kさんご一家がこの家に住み始めてから1年半が経ちました。お引き渡しの時には無地のキャンバスだった「自由な壁」にも、Kさんオリジナルのリンゴ箱を使った棚やペイントなどが加わっています。Kさんと石井さんにDIYについて伺いました。
石井さん:「もう何年も住んでいるかのような、こなれ感がありますね」
門田(設計士):「Kさんは住んでからすぐに今のイメージができていたんですか?」
Kさん:「そうではないです。試行錯誤を経て、ようやく最近この形に落ち着いた感じです。もともと裁縫とか自分で何か作るのは好きだったんですけど、棚を作るのとかはやったことがなくて。リンゴ箱も、やっぱり違うな、とか何回かいろいろやっている中で生まれてきました」
石井さん:「私もそう、いつもいろいろやってみることの繰り返し」
Kさん:「この家は、そういうのを『やっていいんだ』という安心感に包まれている気がするんですよ。DIYの面白さはこの家に入ってみて知りました。DIYで家族の価値観を擦り合わせていく、というのも面白さです。私は壁にカードをいろいろ貼ったり、棚に小さな物を飾ったりするのが大好きなんですが、主人は反対に物がないのが好きなんです。この壁の下半分は、初めは黒板塗料を塗るなんて思ってもいなかったんですが、子ども達の遊び場としてはもちろん、塗ったことでこのスペースの床には物を置かなくなって、結果的に主人にとってもスッキリしたスペースになりました」
石井さん:「新築だった時、下地合板とはいえあまりにキレイな仕上がりだったので、『皆さんここに釘とか打てるのかな?』と心配になったんですよね。でもちゃんと住みこなしてくださってますね。私がこの家に関わらせていただいた時に大事だなと思っていたのは、やり過ぎないこと。買われた方が何十年も住むものなので、交換できない床などは個性を出しすぎず、でも下地のまま仕上げた壁では気兼ねなくいろいろ遊んでほしい。私自身が横須賀のアトリエに初めて『自由にできる壁』を作った時に、一気にDIYの楽しさが広がったんですよ。付けたものは、外すことができる。お子さんの成長や旦那さんの志向に合わせて変えられるし、同じ家でもまたワクワクできる。自由にできることが分かると『今』を楽しめるんです。最初から付けてあると、どう使おうか、という思考になりますが、自由な壁は何もないまっさらなところから始められて、またそこへ戻れる。それが良い所だと思います」
自由にできることが分かると「今」を楽しめる。
それはまるで、生き方のお話のようでもあります。
「自由な壁」の持つ、何もないまっさらなところから始められて、またそこへ戻れるという特質は、スケルトンハウスそのもののコンセプトとも通じる事かもしれません。
門田:「スケルトンハウスは、いわば『性能の良い箱』なんです。住んでからを楽しめるように、という思いでつくっているのですが、Kさんは本当に楽しんでくださってますよね。訪れるたびに少しずつ家の中が変わっていくのがスゴイ。今後、手を入れたい所はあるんですか?」
Kさん:「キッチンにタイルを貼りたいんですが、タイルとなると後から剥がしたくなった時に大変そうで。器具もないし、ちょっと躊躇してるんです」
石井さん:「4mmくらいの薄いベニヤ板にタイルを貼り付けて、それを壁に貼る、という方法もありますよ。キッチンのどの辺りですか?」
Kさん:「コンロ周りです」
石井さん:「だとすると、2つ考えられます。タイルを貼ってみたい、なのか、油はねが気になるから防ぎたい、なのか」
Kさん:「油はねですね。あのシナベニアの壁の質感は気に入っているんです」
石井さん:「それなら質感を変えずに油はねを防いでくれる塗料などもありますよ。家具用のものなんですが」
門田:「塗料の性能や種類などは、家具用の方がきめ細かくて豊富にあるんですよね。そういったものを柔軟に取り入れられるのもDIYならではじゃないでしょうか」
Kさん:「あとは、1階の玄関のカウンターをちょっと変えようかと思っています」
石井さん:「もう誰かに頼むという発想じゃなくて、自分でやるというモードになってますね(笑)」
K邸の1階には、浴室と洗面所が仕切りなく一続きになった、6畳ほどもあるスペースがあります。海の近くの家なので、海遊びから帰ってきたら、外から直接お風呂に入れるようにと屋外へ通じるドアも設けました。この広いバス&パウダールームをどのように使いこなしていらっしゃるのでしょうか。
Kさん:「うちに遊びに来る人はもれなく『お風呂がカッコイイ!』って言いますよ。私自身も、家に帰ってあの空間でお風呂に入るのが楽しい、触る蛇口が楽しい。子ども達と一緒に入っても広々して使いやすいですし。スケルトンハウスの全館空調のおかげか、バスルームを含めこの家はどこにいても温度があまり変わらないのも快適です。」
門田:「あのバスルームに関しては、石井さんと一緒に素材合わせをした時のことを鮮明に覚えています。茶色のアンティークの洗面台に合わせて壁や床のタイルを決めて。棚として使っている積層合板の古材もなかなか手に入らない物でしたね。その結果、どこ風、とかに寄せることもなくいい空間に仕上がりました」
Kさん:「この家に住んでから、主人が海遊びをするようになったんです。『近くなかったら、俺、海なんて行かなかったな』なんて言っています。海から帰ってきて、少年のようにイキイキとした顔をしているのを見ると、ああ、住んで良かったなぁと(笑)」
ライフスタイルに合わせてDIYで家を変えていくこともあれば、住む家が、住まう人のライフスタイルをより幸せに変えていくこともあります。K邸では家とのそんな理想的な関係が日々育まれているように感じました。
「この家とずっと遊び続けてほしい」
石井さんと我々が最初に描いたそんな住まい方が、K邸では想像以上に素敵な形で実現していました。